最後に −現実の被災から−


 幾度も書いてきたことだが、ここに列挙した道具や備品は、必ずしもそれらが取り出せ、使えるとは限らない。本当に必要なのは、応用の利く頭と、歩き回れる健脚や惜しみない労働であり、それを支える心だと思う。

 阪神大震災にあたって幾度となく報じられながら忘れ去られていたのは、メンタルケアの問題だった。そして、そのメンタルケアについて、ロサンジェルス市のマニュアルが解説していたのには改めて驚かされた。ここでは、その記述を紹介しているが、専門家に限らず、このような被災者のメンタル面での問題を理解しておくことは、災害を考える上で非常に有効だし、援助をするにも大切なことだと思う。そして、何よりその記述にもあるように、理解しておくことが、貴方自身の万一の被災時の心の安定に役立つ。

 また、行政などによる防災専門の組織が皆無だということも、今回の震災で我々が目の当たりにしたことだし、市民に心得がなかったことも、また明らかだ。アメリカのFEMAのような組織の、日本における早期の編成が求められるのは当然だし、市民にも、平時からの準備が何より大事だと、私たちの経験が教えている。

 悔やんでも悔やみきれないほどの「人災」と思える側面が、今回*5500を越える死者を出した原因にはある。そして、そのような人災は二度と繰り返してはならない。

 私はノースリッジで余震を経験しながら、その被害の軽さとタイミングから、取材結果を雑誌等に発表できなかった。しかし、震災を経て振り返ったとき、例えミニコミ以下の簡単なものでも、そこで見聞きしたことを、心ある方に報告すべきだったと後悔・反省した。今回、このような形で、ノースリッジからの経験と、それを通じて考えられる、非常時に備えるべき品々や事柄をまとめてみたのは、その反省からだ。数多く出版されたマニュアル本の類に「どこか違う」という感想を持ったこともある。

 ここにまとめた事は、決して完璧ではない。それどころか、現実の災害は一様に捉えられないものであり、それこそ「臨機応変」に対応するしかないのだと、重々承知している。しかし、それでも何らかの準備が成されているのといないのとでは、違いが出てくるだろうと思う。もし、これをご覧になった皆さんで、こんなことが欠けているといったことに気づかれたら、是非ご教授願いたい。改定を重ねれば、更にベターなものが出来て行くのではないだろうか、と思う。

 このマニュアルと、記載された品々を用意されたとして、それらが役立たないことを祈りつつ・・・・。

1995年4月執筆


*本マニュアルは被災直後に執筆しましたが、その後被災死者数は増え、公式発表で6310を越える尊い命が犠牲となりました。また、被災地の仮設住宅では孤独死が相次ぎ、1997年3月9日現在137人の方が亡くなっています。


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©Daisuke Tomiyasu (OverRev) 1997