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RAW現像ソフト比較

最近、デジタル一眼レフの流行とともに、RAW現像ソフトが増えてきて、どれが最も良いのか、迷うほどだ。そこで、AdobeがLightroomのベータ版をリリースしたのにあわせて、実際に比べてみることにした。

RAW現像アプリ比較II ─ Aperture2, Silkypix and Photomatix Pro(英文のみ '08年2月15日掲載)

RAW現像ソフト

Adobe Photoshop CS2

Photoshopも十分な、ほぼ全てのメーカー・モデルに対応したRAW現像機能を持っている。CSやCS2以後は一覧も楽になり、特にCS2からのBridgeは全Adobe製品でグラフィックファイルなどと連携できるので、作業性が格段に向上した。レンズフィルタでレンズの歪曲や色収差補正、周辺光量補正もできる。

Adobe Lightroom (beta・英語版)

AdobeがApertureに対向したのか、Lightroomなどという、どこがBridgeと違うんだと言いたくなるよぉなソフトを作り、現在そのβ版を一般提供している。開発から参加してもらうマーケティングだが、さて、わざわざBridgeとは別に持つべきものだろうか。

Apple Aperture

AppleはApertureというプロ写真家向けソフトをリリースし、Ver.1.5まで進化させている。RAWファイルを一覧表示し、それを調整・トリミングの上でハンドリングして誌面様に並べてみるところまでGUIのAppleよろしく簡単にできるのがウリ。残念ながら私は持っていないが、友人がRAWを現像して送ってくれた(石田氏に多謝)。さらに、11月になって体験版が出たので、4日、自ら処理したものにアップデートした。クライアントやデザイナが脇にいて、レイアウトを決めながらのスタジオ撮影というようなワークフローによっては、写真家の仕事はここまで、と撮影と現像の指示までで割り切れる方もあるだろうし、それならば、このアプリも良い選択。オリジナルのRAWデータを別途手つかずで保存してくれるのも、気が利いている。

DxO

DxOはひと味違うRAW現像ツールだ。このソフトはサムネール一覧機能を持たない(RAWを指定フォルダから一気に読み込み、そこで選択して処理させることはできる)。アプリは所有するボディ及びレンズのデータファイルがあって初めて使えるようになっていて、購入時、自分が持っている機材を選択しないといけない。レンズそれぞれが持つ特有の光学特性に合わせて、DxOが正しく修正する。Photoshopのレンズフィルタに似ているが、DxOは全自動で完璧に修正してくれる。これの詳しい能力については、改めてレポートしたい。

Silkypix 3

他に類を見ない優れソフトがSilkypix。非常に滑らかなディティールを再現してくれるので、大きなサイズでの利用にも有効だろう。ダイナミックレンジのハイライト側を拡張する機能や、サムネールでの一覧機能もある。最近ではSilkypixをDSLRの標準添付アプリにするメーカーも出てきている。

その他

そう幾つものアプリを経験しているわけではないが、ニコンとキャノン、ミノルタのカメラ添付アプリは使ってみたことがある。今は他にもRAW現像のアプリはあるのだろう。カメラメーカーはデジタル一眼レフなどにアプリを添付している。かつてミノルタの一眼レフタイプに添付されていたアプリがPhotoshopに近く最も使い易かったが、それ以外、使い勝手と結果で、上に記したアプリを上回るものには出会ってない。

test image実際に比べてみると…

RAW現像のソフトによる違いの、一つの良い見本が既出の月面写真での比較。今回は、Lightroomのβ版が出たがための比較で、普通の写真でのRAW現像ソフトによる差異を見てみようと思う。

右の見本写真はCanon EOS 1DsMk2にTS-E24mmを装着して撮影したもの。運悪いことに、このTS-EレンズにはDxOのデータファイルがない。だから、DxOにはアンフェアな比較となる。しかし、これ以外に適当な見本とするRAWデータが手許にないので、今回は参考ということでご容赦願いたい。

右はMacOSX Tiger上ののSilkypix Ver.2で、前述のようにCanon EOS 1DsMk2にTS-E24mmを装着し、ISO160 1/50sec f3.5で撮影している。

ある特殊な用途や特別なソフトウェアでは、ぼかしとシャープがバーター関係になっていないものもある。だが、基本的にシャープ処理とソフト処理はバーターの関係にある。このテストの結果では、PhotoshopとLightroomがSilkypixよりもシャープなイメージになっている。DxOはその中間。経験上、Photoshopでそうシャープ処理しないでいたとしても、PhotoshopのRAW処理ではSilkypixのような滑らかさは得られない。だから、PhotoshopかSilkypixかという比較では、このシャープとソフトのバーター関係は忘れて良いだろう。

比較結果は下。Apertureは現像指示よろしくメタデータを挿入するが、他のアプリによる処理を邪魔しないように元のデータを別途保存する。例えばDxOは一旦他のアプリで現像されたデータをうまく処理しないとマニュアルにあったが、元データを別保存していないと、RAW現像アプリの存在がむしろ邪魔になる可能性がある、ということだ。Apertureはこうした面で忙しいフォトグラファーにとって気の利いたツールとして仕上がってきているようだ。

画像は一応、DxOを除いて調子が揃うようにしてみた。DxOの調整は少々変わっていて、自動でやる分には楽勝なのだが、マニュアルで微調整してもうまく揃えることができなかった。それでも結果は、なかなか良い…と思う。これを、部分拡大したのが下の画像だ…

RAW現像ソフトによってどれほど結果が違うか、良く分かるだろう。LightroomはPhotoshopより多少マシという程度で、SilkypixとAdobe製品の間には大きな差異がある。DxOはAdobeのsharpness程度になっている割に、Silkypixのような円滑さもある程度保っている。もしDxOにTS-E24mm用データがあったら結果は違ったものになったかも知れないが、それは、DxOにとって有利な側に変わるだけだ。Apertureの上がりはLightroomとSilkypixの中間、或いはPhotoshopのシャープさとSilkypixの滑らかさを足してややPhotoshop寄りに割った結果といったところだろうか。Lightroomが製品として出てきたら両者は良い勝負になるのかも知れないが、β版だけに最終評価はお預けとしたい。

撮影した被写体次第ではあるが、微細なディティールを必要とするなら、できればAdobe以外のツールでRAW現像を行った方が良いだろう。一秒でも時間が惜しい時がある向きには、Photoshopで直接現像しても良いし、LightroomやApertureはラッシュビューで選択抽出を助け、またサムネール一覧プリントとしてクライアントに渡すなどの使い出もあるから、存在意義はありそうだ。特に製品版としてVer.1.5まで進化したApertureについては、写真家のワークフロー次第。アップルのWebサイトに曰く「すべてのIntelベースMacでApertureが動作。Mac mini、iMac、Mac Proを含むすべてのデスクトップ、MacBook、MacBook Proを含むすべてのノートブックで動作で動作します。」!! なんと、AppleはApertureをデジタル移動暗室として正しく進化させてくれたのだ。

私は基本的にSilkypixを愛用しており、最近Ver.3にアップデートした。さらに、DxOも持っている。使い分けはケースバイケースだが、PhotoshopのRAW現像で済ますことは滅多にない。今、Lightroomのβ版を試す機会を与えられている(誰でもサイトからダウンロードできる)わけだが、どうしても買いたいというほどの優位性は、私には見いだせなかった。しかし、これはLightroomが駄目なソフトだということではない。むしろ、Photoshopに慣れた身には、その調整は極めて分かり易く操作の簡単なものだった。ただ、Apple Apertureが既に完成度を高めている現実から言えば、市場投入で遅きに失した感がある。用途から想定されるユーザーが全てApertureを導入してからリリースしても、Windowsユーザーのパイはあるのだろうが、果たしてそれと、ターゲットであるプロのマーケットがどの程度重複するだろうか。DxOは完璧な結果を見せてくれるが、時として完璧すぎて、欲しいイメージと違ってしまうこともある。レンズの歪曲や周辺光量不足を逆に利用したような絵作りをした場合がまさにそうで、修正し過ぎとなる。Silkypixは、それらの中でも中庸な性質だと言えるが、最新版Ver.3ではさらにダイナミックレンジのハイライト側への拡張機能が加わり、一層強力なツールになっている。

私たちはコンピュータをデジタル暗室としても使っているわけで、以上はフィルムの時代にD-76だ96だ、いやイルフォードの処理が…などと比較しているのに似ている。私も、Silkypixを試すまで、デジタルデータの処理にそんな違いが出るなどとは思ってもいなかったけれど、今はアルゴリズムなどの演算処理上の違いから相違が出るのだと理解している。あなたがもし熱心なら、RAW現像はとても大事な段階と分かるだろうし、私たちはその処理結果をもっと熱心に考え語らないといけないように思う。いつか、完璧なアプリの登場を見ることができるだろうから。

2006年2月22日初版 10月5日・11月4日 加筆修正 冨安 大輔