●避難生活の道具
もしあなたがアウトドアギアをお持ちで、罹災した家から取り出せるとしたら、それらの道具は避難生活の負担を軽減してくれる。どのような道具が重宝かは、これまでに述べてきた中にあるマルチフューエルのキャンプバーナー(コンロ類)やランタンに加えて、次のようなものだ。
道具を非常用で使うコツの一つは、スペアの部品や予備の品を必ず用意しておくこと。また、ナイフ類などは余分があれば心強い。キャンプ時の万能ナイフで私がお勧めしているのはフランス製のオピネル。これは、安くて良く切れるからで、調理など用途は万能で、肥後の守よりも便利。複数用意していてもさして負担にならず、気軽だ。マッチやライターも複数用意しておきたい。
ただし、最も肝心なことは、これらの道具が必ずしも保存場所から使える状態で取り出せるとは限らないということだ。基本的には、これらの道具がなくとも、生き残れば生き延びる策が必要だし、そのためには知恵を働かせ工夫して行動するしかない。
●衣類
1:寒冷期
幸いにして衣類を身につける余裕があれば、レイヤー(重ね着)が基本となる。絹の肌着は皮膚表面を乾燥させておく能力が高く、活動して発汗した後で冷えても風邪をひきにくい。この上に化繊の防寒下着を着用する。さらに、ウールや綿の服を着用し、その上から更にアウターで防風・防寒或いは防水する。下はジーンズなどを着用する。靴下も重ねて履いて、足もとの冷え込みに対応する。
ポラーテックと呼ばれるフリースの一種は濡れても暖かさを失わず、類似の品とは段違いの性能を持つことから、寒冷地にはお勧めできる。ただし、比較するとやや高価ではある。
2:夏期
暑さから発汗量が多くなるが、薄手のウールの上着は乾燥が早い。乾いた着替えは夏風邪を防ぐ。また、薄手のセーター類(コットンセーターなど)やウィンドブレーカーで夜の冷え込みに対応する。
3:その他
とにかく見かけには拘らないこと。「ファッション」という言葉は忘れることだ。
帽子は落下物から頭を守る必需品。建築現場などで使うようなヘルメットもあると万全だ。
手袋は、冬なら防寒用は勿論だが、その他に作業用が欲しい。作業用はバックスキン製など(園芸ならバラ剪定用、作業用なら溶接・鉄筋作業用、四駆ならウィンチ作業用など)が、復旧作業や救助作業に携わるなら、頑丈で適している。テントでの避難生活などには軍手も重宝する。
靴は、軽登山靴のような底の丈夫なものが、ガレキだらけの処を歩くには必需品。液状化現象に見舞われた場所では、長靴も必要になるだろう。長距離を徒歩で避難することを考えると、履きなれていることも大事な要素だ。
PS:避難生活に適した衣料は、そのまま被災地へ援助物資として提供して重宝される衣料品でもある。デザイナーブランドの衣料品を貰っても、被災直後では有り難みはない。まして、それが冬期ならなおさらだろう。
●情報
携帯用TVやラジオは、あるに越したことはない。これから始まるラジオの文字放送は、非常時の情報を書き留めるのに重宝しそうだ。だが、神戸の報道を例に見るのなら、最初は情報が交錯しアテにならず、極論だがデマに近い感触もあったという感想を述べている被災者もいる。
この点については、放送関係者の素直な反省と真摯な今後への取組みに期待するしかない。TVについては、画面を見る分には見たままなので、ラジオよりも的確にその場の状況をかいま見ることにはなるが、その報道姿勢もまた問われているのは皆さんがご存じの通りである。
デマが口コミで伝わりやすいのも、このような事態下での特徴だ。自分で関係機関などに確認した、正確な情報以外は信用しないほうが良い。自分に都合の良い情報に耳を傾けやすいのも、非常時の心理。冷静沈着に判断することが望まれる。
電池式ラジオは、予備の電池を必ず用意すること。また、最悪の事態を考慮すれば、電池がなくともNHKくらいなら聴ける「ゲルマニュウムラジオ」も役立つかも知れない。
●その他
あったら重宝するものは数多い。タオル・ゴミ袋(切り抜けば雨着に、など)・アルミフォイル・金串(料理用)・ティッシュ・メモなど、細々としたものが必要となる。
被災後しばらくは、日常生活で何気なく消費しているあらゆる物資の補給が途絶える。また、店頭からは必要とされる物資はまたたく間に売りきれる。つまり、備蓄しておいた方が良い品物とは、日常生活で使っているトイレットペーパーから食料にいたるまであらゆる物資となり、挙げればキリがない。だから、対策するというよりも、日常的に適宜買い置きするようにすることや、使いきってから買い出しに出るような、平時の消費生活パターンを、ほんのちょっと買い置き型に変えてみると考えた方が良い。一週間分といった量でまとめ買いをするアメリカなどの生活パターンを模倣するのも手だろう。
ただし、傷む食料品を、適宜ローテションしきれない程買い込んで貯蔵するのは馬鹿げている。あくまでも自家消費で適切な時期に交換しきれる量にすること。また、非常用として選ぶ食品は最低でも六ヶ月は貯蔵できるものにする。勿論、より長く保存できるならそれに越したことはない。
©Daisuke Tomiyasu (OverRev) 1997