今後の余震や新たな災害に向けて


○アラスカ −数分間に及ぶマグニチュード9.2の恐怖−

 被災から一カ月後に仕事で渡米、アラスカ入りすることになった。そこで、アラスカ・アンカレッジにはアースクェークエクスペリアンスシアター、つまり地震体験シアターというのがあることを知って、訪ねてみた。

 ダウンタウンにあるそのシアターは、アンカレッジを1964年3月27日夕刻に襲った数分間に及ぶマグニチュード9.2の大地震の記録展示や世界の地震の紹介、地震の発生メカニズムの解説や津波(TSUNAMIは国際語として通じる)の説明などが展示され、アラスカ州内の最新のM4以上の地震(その日の数時間前にもどこかで発生していた様子)を報告する電光掲示や地震計の設置展示と合わせて、地震を理解し、その災害の教訓を残すものになっている。中でも、映写室でのアトラクションは、M9.2の地震の生撮影8mm映像と被災者の証言、その様子のイラストと、地震学者や建築学者の解説からなっていて、これを見ている間に二度程、機械で座席そのものをM4.5クラスの横揺れ地震に見立てて予告なく揺らし、地震を疑似体験させる印象の強いもの。フィルム映写が始まる前に「アンカレッジを襲った地震のパワーは、ここで体験できる地震の10万倍のパワーだったことを想定して欲しい」と前置きがある。みやげものには「地震の缶詰」(バイブレーターが仕組まれた缶詰)なんてのまで売られているが、地震災害の教訓を記憶し、語り継ぐに適した施設ではないかと思った。

 そのフィルムの中に登場した母親は、長男と長女が脇にいて、「長男を左手で抱きかかえ、右手を一面で割れて傾きうねっている地面の上の一角にかけて、割れた地面に落ちないようにしがみついていた。長女は賢く自分で地面の一角に両手をかけて耐えていた。」と記憶を語っていた、

 アンカレッジに暮らす私のパイロットの知人も、親子でこの地震を体験したという。その父親の談によれば、地面・道路は荒れた海のようにうねり、木々や電柱は左に水平になったかと思えば垂直に立ち、また次の瞬間には右に水平になったそうだ。また、その子息もパイロットだが「空から見れば地上は常に動いているんだよ」と言った。

 その後、偶然だが、ロスで乗ったタクシーの運転手はUSコーストガードに勤めていた経歴があり、その地震の時はコディアック島で無線を担当していたそうだ。彼も生々しくその時を記憶していて、「気象情報を集める定時通信にアンカレッジが応答せず、ハワイの局からの報告でアラスカの大地震を知った。あの沈黙は恐怖だった」と語ってくれた。世界中の津波データを集めて研究し、情報もだしているツナミセンターがアラスカにあるそうだが、これはコディアック島を襲った大津波の教訓があるからこそだろう。

 1964年のアンカレッジ地震の恐怖は、薄れることなく語り続けられているし、経験はその後のために活用されているのだ。


○最低限のものをセットして市販

 アンカレッジのアウトドアショップでは、地震対策非常用サバイバルキットが店頭販売されていた。最も安いものの価格$25。中には5年間保存できるUSコーストガードの飲料水125mlパックや、最低一日2/3を食べれば、活動せずに生命を維持する限界の1200kcalが摂取出来るフードバーなどが、ファーストエイドキットと共に入っていた。さらに、このパックを充実させた内容でランチボックス様のケースに入っているものや、アメリカ赤十字のエマージェンシーキットも、同様に店頭販売されていた。このようなキットが誰でも容易に入手できる処で販売されていること自体が、その防災への日常的な気遣いだと言って良いだろう。

 同時に見つけたのは、世界最小のカードサイズサバイバルキット。水に浮かべて使う小さな磁石やフィルム状レンズと、サバイバルのノウハウを樹脂フィルムに印刷したカードだが、確かに非常時にどうすれば良いか、細かいことまではいつまでも覚え続けていられるものじゃあない。「なんだ、これ」と思うようなこのキットも、あれば役に立つことだってあるだろう。もちろん、役立つ事がないに越したことはないのだけれど・・・・。


○一年後のノースリッジ

 仕事を終えてからは、アンカレッジを後にし、ノースリッジ地震の直後に取材に行った友人宅を訪ねた。旧交を暖めつつの地震談義。ロサンジェルス市が発行している、地震災害に備える小冊子を贈呈された。ノースリッジやチャツワースでは、未だに立入禁止で解体されていないコンドミニアムや、外壁を鉄骨でつっかい棒よろしく補強したビルなどが痛々しく残っているものの、大半は復旧していた。周辺では宅地開発が進み、新たな住宅団地に多くの新住民が入居していた。「ロスっ子は半年もすれば忘れちゃうのさ」とは友人の冗談だが、過ぎたことを言ってみても始まらない。ロサンジェルス近郊でも比較的治安の良い地区で一戸建てを持とうと思う人には、チャツワースやノースリッジは他にない物件なのだそうだ。

○米軍払い下げ品

 チャツワースでは、ミリタリーおたくのおっさんが仕入れていた米軍払い下げの発電機が格安で売りに出ていた。4時間しか使ってない新品同様の代物。暇潰しに寄ったガン・ショウでは、これまた米軍払い下げのマルチフューエルタイプのランタンが頑丈そうなケースに二個はいって、格安で売りに出ていた。

 米軍用品は、MILスペックと言う軍需規格で作られている。このため、民生用とは比較にならない耐久性を有していたりする。勿論、それを普段の道具と思うと「重たい」だの「ゴツくてダサイ」だのといった不満が出るやも知れないが、非常時を思えば最良のギアだ。だが、いつでも自由に手に入るというような品物ではなく、たまたま放出品に出会った時だけが購入のチャンスで、修理も自分でやらねばならず、その部品も、アメリカですら放出品市を気をつけて見てないといけないといった不自由はある。

 もし、自衛隊が類似の品物を使用しているのであれば、民間にそうした道具類が備蓄されることは、非常時を考えれば極めて有効だから、それらの払い下げや一部市販を真剣に考えて欲しいと思う。


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©Daisuke Tomiyasu (OverRev) 1997