2:経験などを織り交ぜて


○対策 −家具・調度品の固定−

●タンスや書棚等、家具の固定は、下敷きになるのを防ぐ意味から大事な対策だ。良く知られているL型金具での方法は、木ねじでしっかりと壁芯のある場所に固定しなければ効果しない。冷蔵庫は上下二箇所で、ストラップやケーブルワイヤー類で固定する。

●サイドボード上などに置くオーディオ機器やTV、スタンドや植木鉢などには、片面がベルクロになっている粘着テープを双方に貼りつけて固定するなどの方法がある。なお、ロサンジェルス市のマニュアルには「Quake/Grip VELCRO」というファスナーが紹介されている。

●鉢植えを吊り下げる場合には、強度が十分で、なおかつ吊り下げ部分の開いていない(完全に輪になっているような)フックを用いること。

●キャビネットやカップボード、水やは、ラッチ類(引っ掛け金具やスライド鍵)で扉が開かないようにする。

○避難 −冷静に判断し行動する−

 避難するかどうかには、三段階と一ケースの可能性がある。

1:家に被害があり、窓は割れ壁が落ちるなどしているが、何とか家にとどまれる。

2:家の被害が大きく、外に出るしかない。庭や近くの広場に安全なキャンプを確保。

3:家や近隣の家々も大きな被害を受け、危険で、地区から避難する必要がある。

☆津波の恐れがある場合には、高台へ急いで避難する。また、大規模なガス漏れによる避難勧告や、地滑りへの避難勧告がある場合には、上の3と判断される。

ロサンジェルスのマニュアルが必ずしも適合しないのがこの項目だ。広いアメリカと狭い日本では、おのずと条件が違ってしまう。裏庭でキャンプできる人は決して多くないだろうし、集合住宅のそばでは建物の倒壊が怖くて、とても近くには居座れないだろう。

 しかし、神戸の震災では避難所にあてがわれた古い学校の校舎が危険だったり、病院が破壊されたりもした。避難先として用いられるこのような建物が被災しても大丈夫なように、関係者の改善努力をお願いしたい。同時に、国内の既存の避難所に指定されている建物全てについて、強度の検証が望まれる。

 いずれにせよ、被災後は、以上の三段階及び一ケースに合わせて、必要な行動を取る事になる。いつ、どのようなタイミングで被災するかは分からない。あらゆるケースに備えて、普段から最寄りの避難所といった非常時の家族全員の集合場所や、連絡の方法を決めておくことをお勧めする。

 家のドアや物置、押し入れなどは開放しておく。余震で更に傾くと開閉が不能になるからだ。

 なお、専門家の指摘によれば、大阪湾には大きな活断層があり、これが原因で地震が起きた場合、津波の警報が間に合うかどうかは極めて疑問だそうだ。大阪湾沿岸地域にお住まいの方々にあっては、地震直後すぐに高台へ避難する心構えがあった方が良いのかも知れない。大阪湾内の断層が原因となる場合、その津波は湾内であるがゆえにどのような動きをするのか、予想が出来ないそうだ。

○被災時の食事

■サバイバルフーズ

 被災の経験から、こんな非常食があればなぁ、と思うことは多々あった。それは、余震への恐怖感や緊張から食事がまともに喉を通らないことや、折からの寒さに耐えるための熱量を得る必要があったことなどから、自ら必要を感じたものだ。

 例えば、私の体重は被災後一カ月で7kg減少していた。このことから、バランスの取れた栄養価と、効率的な熱量の摂取の必要性を強く感じた。そこで今、この期間を振り返って合理的に非常食として準備できるもの、或いはこのような製品が望まれる、といったことを挙げてみたい。なお、日本での非常食の代表であるカンパンは除外している。これは、現実には必要な熱量を得ることが難しく、また、歯の悪いお年寄りなどは食べようがなかったしたからだ。ミルクで緩めてなどと言うが、そのミルクは避難所では望むべくもなかったし、個人で準備するのならより優れたものが選べると思う。私は、そろそろ脱カンパンの時期だろうと思っている。

 また、その他の項目には、一見さして必要とは思われないお茶やコーヒーといったものが含まれているが、これらは避難生活上のストレスを軽減し、気分を鎮めるのに絶大な効果があることを忘れないで欲しい。

●フード・バー

 日本にもカロリーメイトやバランスアップなどのフード・バーがあるが、これらはどちらかというと低カロリー好バランスを目標としている。バー一本あたりの熱量では、前述のアメリカのエマージェンシーキットに入っているものが一本1800kcalもあるのに対し、カロリーメイトで僅かに一本100kcalに過ぎない。日常の生活では低カロリー食がもてはやされるが、非常時には逆に高カロリー食が欲しい。同じフード・バーでも目的によっては全く逆のものが求められるわけだ。両極端の製品があれば、その目的に応じて使い分けできるのだが。

●レトルトパウチ

 レトルト食品は増えてはいるが、最近では入手が困難になったものもあり、店頭で見るものは限られてしまっていて、残念。被災時用として特に製品化して欲しいものが「汁物」だ。高齢の被災者や幼児のことも考えて、メニューや容量にバリエーションが欲しい。レトルトパウチは缶に比べて省スペース・軽量であり、保存性が良く、調理が簡単(暖めるだけ)で、最も非常食に適している形態の一つだ。現在手軽に入手できる代表はカレー・シチュー・おかゆといったところだろうか。

 アメリカにはMREというパックがある。コンバットレーションはレトルトパウチのフルコースパックとして、ミリタリーマニアなら誰でも知っているが、MREはそれらに化学反応を利用した加熱機能を加えた物。MREとはMeal Ready for Eatの略。これは軍用品だが、前述の放出品同様で彼国では入手が可能だ。こうした、レーションやMREを見本に、日本人の口に合った内容の非常食パックが欲しいものだ。特に、行政などが備蓄し非常時に配給する食料として、このようなものがあると良いだろう。

●真空パック

ご飯の真空パックは使える。雑炊の素やピラフの素と合わせて工夫できる。

●麺類

 常温6ヶ月保存可能の真空パックうどんなどがある。乾麺やパスタも、水が調達できれば使えるし、保存も利く。活動食としてエネルギーに転換され易いのはパスタ。

●ドライフーズ

 フリーズドライの技術が出来て以来、この製法で作った保存食が増えている。価格は高めだが、味・携帯時の軽量さ・保存性の良さで、非常時のための備蓄に向いている。ただし、食べるためには水が必要だから、十分な水の備蓄とセットで用意する。外国製品にはスクランブルエッグやシュガービーンズもあり、これらは非常に美味しい。

 ドライフードの元祖とも言えるドライフルーツや高カロリーのナッツ類も、補助食品として是非備蓄しておきたいものだ。

●缶詰め

 あらゆる缶詰めは非常食の元祖。長期保存できて、メニューのバリエーションを増やしてくれて、なおかつ調理の手間もかからず好都合なのだが、重たい

●パン・米

 パン類は、インド料理のナンのような小麦粉を練るだけのものなら、何とかして焼くことが出来るし、消費する水の量も少なくて済む。米はこれに比べて水の無駄が多い。極力パン食を基本として、どうしても米という方にはアルファ米や無洗米の備蓄をお勧めする。

●インスタント食品

 熱量的には期待できないが、スープ類や味噌汁などは体を暖めたりするのに役立つ。

●調味料

 砂糖・塩・胡椒・醤油・味噌・食用油・小麦粉

●その他

 ロングライフミルク・粉ミルク(水を加えればミルクとして栄養価を補給できるのは勿論だが、調理のバリエーションを増やすのにも使える)・インスタントジュース(ビタミン類を添加しているもの。それを補給し健康状態を維持する)・パスタ+ソース・干し肉・クラッカー・クッキー・はちみつ・インスタントコーヒー・紅茶・ココア・ガム・ジャム・キャンディー等など・・・(☆粉ミルクとバターピーナツ、蜂蜜を混ぜると、クラッカーに塗って食べる高エネルギー高タンパクのスプレッドが出来る)

■一般食料との併用

 家の中から買い置きの食べ物が取り出せたり、冷蔵庫が無事なら、残っている食べ物は、冷凍庫の冷凍食品とともにクーラーボックスへ移し、傷みそうなものから食べ、保存の利く食料は後回しにする。こうすることで、食料の救援が届くまでの自活期間を長くできる。また、クーラーボックスがない場合、冷蔵庫の空間を新聞紙で埋めると保冷効果を高めることができる。

 普段から冷凍食品を多量に備蓄するのも一案だが、電気が通って冷蔵庫が使えるようになるまでには時間がかかる。キャンプ用冷蔵庫の使用も考えられないではないが、あくまでそれらが無事だった場合のことだ。


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©Daisuke Tomiyasu (OverRev) 1997