○非常時のための備蓄の目安

●全体量

 良く言われるのは三日分だが、神戸の被災の結果と人口規模から考えると、出来ることなら一週間分は欲しいように思う。別項に紹介した、FEMAのような組織が完璧に活動するロサンジェルス市のマニュアルですら三日分を示唆している。神戸の場合、三日目の夜になってようやく食料が届いたという避難所が、私が配送した処にあったし、まだ来ていないという処もあったと聞いている。東京のように人口の密集した地域では、この期間はより長くなるものと思った方が良い。誰もがベストを尽くすのだが、それでも追いつかないからだし、救援を差し伸べる行政が被災していて完璧には機能しきれない可能性もあるのだ。

 また、保存食は期限があるから定期的に交換しなくてはならないから、家庭でも半年に一・二回程、非常時の心得などを話題に非常食の夕げを持ったら良いかも知れない。保存食を事前に食べて、家族の舌に合ったものやアレルギーを持つ家族にも食べられるものを見つけておくのも大事なポイントだ。

●飲料水

1:量

 人間が生き延びるために必要とする飲料水の量をご存じだろうか。水だけを考えた場合、一日に必要なのは気温の寒暖によって

1.9〜2.5リットルの間

とされる。これは日常的に活動する場合。ロサンジェルス市のマニュアルでは必要量を一人一日1.9リットルから3.8リットルの間とし、その必要量の差については活動量・節約努力量・体格・天候・発汗ロスによるとしていて、同時に一人あたり1.5ガロン(5.7リットル)を72時間分として例示している。また、備蓄用としては、四人家族を例として二週間分の28ガロン(106.4リットル)を指示している。このことからも分かるように、目安としては一人一日2リッターと考え、少しでも多めに準備したい。

 もし単純に生命を救援まで保つためだけに限定し、もともと健康体の人が寝たきりで過ごせるのならば、250ml程度でも何とか命をつなげる。もし、この程度の量しかないときには、最初の24時間は絶対に水を摂取しないこと。次の12時間ごとに、125mlを目安に摂取する。しかし、これは砂漠に墜落した飛行機での場合などで、救助されれば脱水症状を緩和できるということに期待しての延命策として記憶し、あくまで備蓄量は多くして欲しい。

2:保存

 浄水器で不純物を漉し取った水道水は、雑菌はないが消毒塩素も除去していて、保存用には適さない。保存するためには塩素による容器消毒を施す。この方法では、6カ月間程の保存が出来る。

  1. 洗剤を溶いた水で保存容器を洗い、更に洗剤分が完全になくなるように洗い流す。
  2. 容器に3/4量の水を入れ、946ccあたり50cc(1/4カップ)の液体漂白剤を入れる。(注:この段階はまだ消毒段階であり、中の水は飲用ではない)
  3. 容器を良く振り、一・二度上下逆さまにする。
  4. 2〜3分容器を置いて放置し、中の消毒漂白液を次の容器へ移し、同じ手順で別な容器を消毒する。同じ液で幾つかの容器を消毒できる。
  5. 消毒済みの容器に水をみたし、しっかり栓をして封じる。容器には飲料水という表示と、詰めた年月日を記録する。

また、保存用に特別にパッケージされた水を用意しておくのも良い。アメリカで販売されている密封保存用の飲料水は5年を保存限度としているが、日本製品は缶で3年保存とされている。アメリカ・コーストガード製のプラスティックパックの飲料水125mlパックも5年保存だし、紙パックのものもそうだ。長期保存の利く飲料水は消毒薬の濃度などの違いで、各々の国の水準に合わせてある事によるのだと思われるが、やはり長期保存の利くものの方が、非常時のための備蓄用には有り難いように思う。

 水の貯蔵にはポリタンク類やキャンプ用のタンク類が数多く出回っている。ポリエチレンプラスティックの容器は、気化した炭化水素を透過するので、ガソリンや灯油などから離して保存すること。ビニールプラスティックの容器(良く塩素系消毒液が入っているような、軟らかな容器)に保存した水は飲用に適さない。この手の樹脂は好ましくない成分が保存している水に含まれてしまう。また、ポリタンクは使用条件によっては、成型時の接合部分で割れたりすることもあるので、予備の用意が望ましい。

3:採取

 保存している水がない、或いは保存場所もろとも破壊されてしまうこともあるだろう。飲める水がある場所は、トイレのロータンクの中、冷凍庫の氷を解かすなどの手もある。複数階の家に住んでいるなら、階下の低い位置の蛇口からパイプ内部の水を取り出すことも出来るだろう。凍結防止時の要領で湯沸器の水を抜く手もある。缶詰め食品が含んでいる水分も、摂取量に加えることができる。携帯用の浄水器がアウトドア用品にあるが、これがあれば様々な水を薬品に頼らずに飲用に出来る。

 もし、最寄りに井戸水がある場合、それを沸かしたり、携帯用の浄水器で浄化して飲むこともできる。地下水の豊富な処なら、日頃から最寄りの井戸のある場所を確認しておこう。神戸の場合、地下水の豊富さが大きな救いだったと感じている。

 なお、飲料とする水の消毒の方法は、以下の通りである。

塩素やヨードチンキで消毒する場合

水の量

塩素消毒する場合

2%ヨードチンキで消毒する場合

 

透明な水

濁った水

透明な水

濁った水

946cc(1クウォート)

2滴

4滴

3滴

6滴

3.8リットル(1ガロン)

8滴

16滴

12滴

24滴

19リットル(5ガロン)

茶匙1/2

茶匙1杯

茶匙3/4

茶匙1杯半

(注:塩素は、家庭用の粒状塩素漂白剤は毒だから用いないこと)

上の要領で消毒した容器入りの水を、30分放置し、消毒薬の匂いが消えてなければ更に15分放置する。

塩素液は、1年を経過したものは2倍量を用い、2年を経過したものは使えない。

アウトドアショップなどでは、飲料目的で水を消毒するための薬品が販売されているので、それらを利用するのも良い。なお、消毒した水の飲用適合期間は48時間である。

煮沸消毒する場合は、1分間に加えて、高度300mごとに1分の割で時間を延長した分の間沸騰させる。例えば、高度600mの処で煮沸消毒するには3分間沸騰させることになる。より長く煮沸すれば、当然安全度は増す。

●雑用水

 プールがあるような家が日本に多くあるわけはないが、もしプールがあるのなら、当然雑用水として役立つ。風呂の水は雑用水として重宝するので、水を抜いた時にはすぐに満たしておくようにするのも良い。我が家も風呂の残り湯には助けられた。
 雨天時に樋に集まる雨水は、容器に溜めて雑用水として使える。路地尊のような平時からの備えも、火災などを考えると是非欲しい対策だ。200リットルのドラム缶を利用した防火用水のような貯水方法が簡便だろう。

●水の移送

 容器からの移し変えなどには、風呂の残り湯を洗濯機に汲み上げるポンプが便利だった。また、自動車のシガーライターから電源を取るタイプのレジャーシャワーも、水を汲むポンプとして応用できる。我が家でも、ドラム缶で汲んできた水を風呂へ移したり、キャンプストーブを使って大鍋で暖めた湯で、ポンプを使ってシャワーを浴びたりした。

○救急箱 FIRST AID KIT

 ここに示したのは目安に過ぎない。これら以外に、家族の健康状態上の必要に応じて中身を吟味・検討していただきたい。容器には、タッパーウェアや釣の道具入れなどが重宝する。

●薬品類

抗生物質軟膏
医師の指示によって家族に必要な薬
インシュリン・心臓病薬・高血圧症薬など
アスピリンやバファリンなどの鎮痛薬
下痢止め
下剤
目薬
消毒洗浄薬
 オキシドール・リバノール・ヨードチンキなど
  消毒した樹脂製小瓶にコットンボールを入れて、そこへ満たしておくと便利
その他
  咳止め・市販かぜ薬などの一般常備薬類

●外傷処置

 包帯(サイズ別数種)・ガーゼ付き絆創膏・三角布・ガーゼパッド・脱脂綿・紙テープ・眼帯・油紙

●その他

 安全ピン・刺抜き・鋏・ピンセット・カミソリ・針・水浄化薬・スキンクリーム・石鹸・衛生ナプキン・ポケットナイフ・メモ用紙と筆記具・体温計・重曹・精製塩・ティッシュペーパー・糸ようじ・消毒用アルコール・過酸化水素・ワセリン・コールドパック・ホットパック・紙コップ・日焼け止め・防虫スプレー・カーマインローション・非常電話番号と十円玉・等など・・・・

●参考書

 スイス赤十字の出版物の翻訳もので、「家族を守るファーストエイド」などの携帯性の良いサイズの出版物があるが、こういった参考書籍を救急箱に入れておくと良いだろう。


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©Daisuke Tomiyasu (OverRev) 1997