Orion 300mm f4の改造とニュートン鏡の光軸調整 この望遠鏡の最大のウィークポイント を強いて挙げるとしたら、そのフォーカサーユニット(接眼レンズを装着してチューブを繰り出してピントを調整する部品全体)だ。なにしろVixenの200SSなどで使われているものがそのまんま。だから安いといえばそうだし、眼視なら十分。 ところが、デジカメやCCDを装着して写真を撮ろうとした途端、このフォーカサーは役不足となる。JMIモトフォーカスを装着するなら、フォーカス軸の押え役になっているプレートとモーターマウントとの間にスペーサーを噛まして、フォーカスノブの遊びが起きないように注意。 私は、辛抱たまらずフォーカサーを交換してしまった。それも、天邪鬼だから、国内販売されていないものも含めてWWWサーフィンで物色し、結局、見つけたアメリカのMoonLite製Dual Rate Crayford Focuserというものを選んだ。 この会社、私のモトフォーカス装着の可否の問合せメールに「デュアルスピードを採用した以上、うちの製品にモーターをつける気はないし、その必然もない。電動にしたかったらJMIを買え」とにべもない返事をよこしたので、それほど自信があるのなら、よほどのクオリティだろうと推測した。そういわれると、選ぶ品はもちろん、デュアルスピードだ。 6月2日に発注して、到着は7日と、随分早かった。ぶっ飛んだのはそのクオリティ。フォーカサー単体で送料込み四万円越の価格だが、それだけのことはある。手垢のついた形容 ではあるが「滑らかな動き」とは、本来このことだと再認識させられた。 ネジ位置が合わないので、本体への装着にはドリルで新たに 穴を開けた。もともとの穴が大きいので、Crayford Focuserとの間に隙間ができる。これは、樹脂板を適当に切って塞いだ。左がその完成状態。 デュアルスピードのフォーカスノブが滑らかに動くおかげで、高倍率でもピントの山を出し易い。(Thank you very much Mr.Ron Newman@Moonlite!!) お陰で、火星迎撃の態勢が整った。 あとは、光軸調整のみ。ヘリックスレーザーコリメーターはオライオン鏡筒と一緒に買っていたが、実はなかなか使いこなせない というか、迷いのドツボにはまって、光軸調整法の本を入手して読み込んだりもした。この内容を掲載できたら皆さんの助けになると思うけれど、売っているものをまるまる載せたんじゃ、これまたニュートン鏡を入手した人たちのためと自費出版されている著者と、それを販売しているお店に申し訳ない。ニュートン鏡を入手した方々には、コプティック星座館で販売されているこの本の購入をお勧めする (販売終了なんてことになったら著者に許しを乞うて全文掲載したいと思う。また、私がやらずとも、その役を担う方がきっと出てこられるとも思う)。 また、英語サイト“FAQ about Collimating a Newtonian telescope” も参考になるだろう。 オライオンでの光軸調整で私が気づいたポイントは、フォーカサーを変更することでフォーカサーと副鏡の位置がしっかり決まった後は調整が比較的容易になったことから、“フォー カサーと副鏡の関係だけはとにかくしっかり作り上げること”。ここが決まっていれば、主鏡の調整も比較的スムーズに終わる。逆に、フォーカサーのところがガタついていれば、コリメーターを使ったところでレーザー発射位置が定まらず、実際の観測でアイピースやカメラをつければなおさらズレが大きくなるので、どんなにシビアに合わせても調整そのものが無意味になる。また、経験から、副鏡の位置はピントへの影響が大きいようだ。 大型のドブソニアンなどは鏡筒そのものが分解式。毎回組み立てるわけだから、必須の調整はそう厄介なもんじゃあないだろう、と推測できる。この“調整は厄介ではない”理由も、どうやらフォーカサーと副鏡の位置関係にあるのではないかと思っている。これがきちんと決まっていれば、レーザー光が主鏡の中心にあたるように主鏡の位置を合わせ(オライオンの場合は位置が決まっているので副鏡の傾きを調整)、次に、その反射でフォーカサーへ戻るレーザー光が発射口と一致するように主鏡の傾きを調整すれば良い。この手順をオライオンに当てはめると、比較的短時間で調整を終えることができる。 この理屈が分かれば、鏡筒の構造・材質は、設置する向きによってたわんだりしない限り、どうでも良いことも分かる。一方、そのたわみや温度変化などによる伸縮こそが鍵だ。役立つかどうか怪しい速度でしか走らない車のエアスポイラーがあんな値段でできるくらいだから、カーボン鏡筒だって安価にできても良さそうなものだが…(カーボン鏡筒は軽く、伸縮率が非常に小さい)。 |
天体望遠鏡にはど素人の私があれこれ書けるもんじゃないのは百も承知。名だたるアマチュア天文家の諸兄の各Webサイトや御著書の著述を大いに参考にさせていただいたことには、深く感謝している。けれど、私にも写真機材という光学機器をアマチュア時代から34年も触ってきた経験があるから、これを土台に、ちょっとだけご参考のために書くことをお許しいただきたい。(下右写真はオライオン300mmf4で火星観測中のイメージ) Orion 300mm f4 について ニュートンなんて呼べばちょっと通っぽいのかも知れない。要は反射式望遠鏡だ。屈折式よりも低価格で大口径が得られる長所のある形式で、オジサンが中学生の頃には「五藤光学」というメーカーが有名だった。憧れだったその五藤、実は、その五藤の反射で土星を見たときの記憶が忘れられず、年齢とともに怪しくなってきた目に恐怖感を覚えたこともあって、再び望遠鏡に手を出すことにしたのだ。五藤光学が今でも一般用望遠鏡を手がけていたら、もっと早い時期に購入していたかも知れないが、残念ながら公共施設向け専業になっておられる。ちなみに、友人から見えないのが当然とバカにされた某M社製望遠鏡も反射式だった。だから、ステップアップで口径を大きくするにあたって、屈折・ニュートンどちらを入手するかという分かれ道にさしかかったとき、反射を選んだことを思い描いて、その吉凶に悩んだ。 結局反射式を買ったとはいえ、誰にでもニュートンをお勧めするかと聞かれたら、一般論ヌキであっても、答えはNoだ。理由は、調整の手間と温度順応の時間。面倒臭さといったら、到底屈折の比ではない。あなたがもし初めての天体望遠鏡を物色中なら、反射式はやめておいたほうが無難。今のようにレーザーコリメーターなんてない 、私が中学生の頃のM社のニュートンも、今日のレーザーコリメーターの手軽さで調整すれば、もっと見えたのかもしれないと思う。そういうわけで、普通には屈折式を入手して、無駄な時間は省いて少しでも多く観望したほうが良いのではないかなぁ。 さて、Webなどで見かけていた英国オライオン社の製品は、ロケット打ち上げや宇宙基地を例にすれば日本より進んでいるロシア製と並んで、興味をそそられる存在だった。それをテレビュージャパンが扱い始めたということで、くすぶっていたニュートンへの思いに火がついた。入手までの紆余曲折や迷いは、とても書き尽くせない。 (蛇足─タカハシ製の赤道儀は製造温度より20度違うと伸縮で稼動しないそうで、寒冷地ユーザーはヒーター必須だそうだが、ロシア製の赤道儀ならそんなことはない…かも) けれども、火星が大接近するチャンスは、オジサンの人生には二度とない。ここは一番、アップグレードするしかなかろうと、決意。オライオンの比べようもない軽さが、とりあえず赤道儀を後回しにしても良いだろうということで、大口径に手を出しやすくしてくれた。 加えて、実はもう一つ、BORGやTV85で撮影した結果の評価に常に「小口径にしては」という但し書きが伴っていたことで、いつも悔しいような、ひっかかるような思いをしてきたことがあった。言われる度に、「じゃあ大口径で撮っていたらどうなんだい」と感じていたのだ。だから、大口径+デジカメでどうなるか、自分で確かめたいじゃないか、と。この答えは今後の経験に委ね、また掲載して行くことにするが、星雲のような淡いターゲットになると大口径が優位なのは自明のことではある。問題は、そんな大口径の望遠鏡になると、用意するだけでもホネで、気軽にひょいとベランダに出して、というわけには行かなくなることだ。 モノが届いての第一印象は、とにかく「巨大」だということ。こんなのがGP赤道儀で賄えるんだろうかという危惧は、バランスウェイトに関しては当たっていて、スタジオストロボのバンクライト(フラッシュキューブ部分を突っ込んで使う、箱のようなもの)用ブームアームで使うバランスウェイトの追加だけでは追いつかず、エクササイズのダンベルまでくっつけてようやく帳尻が合う始末。でも、鉄の塊にそうおいそれとお金を払う気にもなれず、当分ダンベルで間に合わせておくことにする。いずれそのうち、赤道儀をアップグレードしなくちゃ…とは思うけれど、とりあえず、GPでも木星を撮っている間の追尾には、専用の鉄の塊に出費 せずとも、さほど不自由しない。 (03年7月追記/GPD-PCを入手したが、SkySensorのDCモーターは役不足で、一時間半ほど使うと悲鳴のような音を上げて止まってしまう。このため、当分DD-1+MT-1x2をGPDに装着して使うことにする 。また、ウェイトはEYEBELLが取り扱っておいでの薄型を二枚購入。重心端を遠くできる分だけウェイト全体の重量は軽量化できるが、もっと軽くするのに、GPマウント用の延長シャフトなんてのがないのかなぁ、と思う。) 最初からレーザーコリメーターとパラコアを入手していたおかげで、三日ほどで微調整の追い込みにも慣れて、なんとかピントが来るようになった(9月2日追記。最初はそう思ったが、後でドツボにはまり、6~7月の長雨もあって調整に苦労した。やはり、しっかりした基礎知識は必須)。レーザーコリメーターは、あるとなしでは月とスッポン。簡単に光軸があわせられる ─ なんと素晴らしい進歩だろう。レーザーコリメーターは、そんなわけで反射式のオーナーには必須に近いと思う。TV85で使っていたJMIのモートフォーカスを流用する部品の発注も既にかけていて、届いたら赤道儀以外はほぼ完璧だ。ついでに贅沢を言うと、赤道儀も折角オートガイドまで出来ているのだから、光センサに今や安価になったGPSユニットを加えて、 全自動とまでは言わないけれど、極軸合わせにLED表示で右だ左だ上だ下だと指示が出て、合えばグリーンが点る、なんて具合にならないものだろうか。 カメラ用レンズの場合、基本的に、自分で光軸を調整するなんてことはない。反射式望遠鏡に近いミラー式レンズはかつて持っていたことがあるが、リング状のボケは常に完璧だった。つまりは、あれを思い描いて綺麗なボケが出れば、とりあえず軸は曲がってない、ということ。それに、写真家として4×5ビューカメラを使いこなすのに必要な光学系の基礎的な知識は、調整のための基礎知識にも通じるところがあると思う。 ホネをおって調整し、月を撮影し、木星にトライしはじめての感想は「大口径はシーイングの悪さも大きい」ということ。それに、屈折のときにはどちらかといえば精神的なものだけれど、今度は全身肉体労働を伴うこと。運動不足だから腰のいたいことといったら…。 例え腰は痛くても、満月を撮影して全周にわたって綺麗なピントで写ったときには、そりゃあ嬉しかったし、得られる画像の情報量は、やはり小口径の比じゃあない。デジカメで撮れる枚数がごっそり減るほど、違う。 自動車を使う国内の移動や、自作ドブソニアンの鏡筒としてなど、コストパフォーマンスからして、この300mmの存在意義は非常に大きいように思う。常設できる環境なら重たくても構わないようなものだけれど、そんな、環境に恵まれた人がどれほどいるだろう。それに、見るための設置作業が面倒であればあるほど、望遠鏡を出すのが億劫になり、やがて望遠鏡を使わなくなる。恐らく、オライオンのサイズ・性能と重量は、大口径の側で常に臨時設置の状態を余技なくされている多くの人たちにとって、妥協の上限なのではないだろうか。大きければ大きいほど重く、より巨大な赤道儀が必要となり、より大掛かりな移動・設置になる。もちろん、それを実際にやっている方々がおられるのは雑誌などで知ってるけれど、自分がやる気になるかどうかは別問題とさせてほしい。少なくとも、このオジサンにとって敷居が高かったのは事実だ。 これから時間をかけて、火星が接近する夏までに使いこなせるようにならなくては、という楽しいプレッシャーのもと、一人で抱え上げて赤道儀に載せられる程度の重さに収まっているこのオライオンニュートン鏡筒の有り難いこと (9月2日追記:火星接近後は毎日のように抱え上げて観望しているが、それもさして苦にならない)。「要る」「要らない」の見極めの良さには、かつて個人輸入したランドローバー(現在のディフェンダーに相当)にも通じるイギリス流の合理性、潔さを感じてもいる。ちなみに、某有名天文雑誌03年2月号にこの製品の評価記事があったが、ダメなところがあるとしたら、その部分の素性を洗ってみると良い。そして、気に食わないところを改良して行くのも、ニュートン鏡オーナーの趣味のうちと考えたほうが良さそうだ。少なくとも、雑誌の評価記事なんぞは、データはともかく文章では、複数月の記事を並べて読み抜けば、かかっているバイアスも見えてくる─その程度のようだ。良くあるのは、読者というバイアス。オーナーの多い、古い機種の再評価だと、筆が鈍る。自分の愛機の悪口を読みたい人は少ないからね。 最後に、そんなオライオン製品を日本で取り扱ってくださっているテレビュージャパンの天津氏に感謝。オライオンニュートンは、そのマニアックさ、ツクリの具合も含めて、天体望遠鏡のランドローバーだ。 2003//4/21筆 |
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